子どもの数が減り続けていKAMIKADO KAZUHIRO138る日本で、子どもの虐待通告件数は増え続けています。かつて私は児童精神科医として児童相談所で、虐待を受けた子どもに対応していました。そのときに強く感じたのは、状況が悪化してからの対処ではなく、虐待を未然に防ぐための取り組みが必要だということです。子どもの生活や育ちの場から関わる福祉の分野なら、医療では助けが間に合わない子どもを、もっと手前の段階で救えるのではないか。その思いから社会福祉の研究の道に進んだ経緯があります。虐待などさまざまな事情で親と一緒に暮らせない子どもを、社会が親の代わりに養育することを「社会的養護」といいます。日本では長らく、施設での養護が8〜9割を占めました。しかし2016年の児童福祉法の改正を機に、世界の標準に沿って、施設から家庭でのケアへと移行が進んでいます。私は社会福祉学と児童精神医学の2つの専門性を軸に、子どもの最善の利益を保障するための社会的養護のあり方を探究し、政策提言にも取り組んでいます。子どもの幸せについて考える上で、人間科学部では健康福祉にとどまらず、心理、教育、医学、情報科学といった関連する分野の知識を幅広く身につけることができます。 異なる専門性を組み合わせ、複眼的視点で考えることで、新たな解決策を見いだせる可能性は高まります。また子ども自身の声やニーズを、取り組みに反映することも非常に重要です。これから大学生になるみなさんは、子ども時代を経て大人の入口に立つ世代であり、その立場だから出せるアイデアや視点は、私たち研究者にとっても示唆に富むものです。 社会的養護が変革期にある今、課題解決に向けて若い世代が果たし得る役割は大きいと感じています。慶應義塾大学文学部卒業、信州大学医学部卒業、京都府立大学大学院公共政策学研究科博士後期課程修了。博士(福祉社会学)。佐久総合病院医師、京都市児童福祉センター医師、長野大学准教授・教授などを経て、2019年より現職。専門は子ども家庭福祉、児童精神医学。上鹿渡 和宏人間科学部 健康福祉科学科 教授MESSAGE FROM PROFESSOR子どもにとっての最善の利益複眼的に考え課題解決策を探る
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