誰もが平等で、誰にでも居場所がある脈々と受け継がれる早稲田の伝統過去3年間私たちを苦しめてきた新型コロナウイルスをはじめ、世界の経済や暮らしに甚大な影響を与えている軍事大国の隣国への侵略、地球の温暖化による気候変動など、日々報じられるさまざまなニュースを皆さんも関心を持って受け止めていることでしょう。人類が直面しているこれらの問題に共通するのは、「解決策はこれだ」と明確な答えを持つ人が、世界中に誰一人いないということです。これから早稲田大学で学ぶ皆さんには、こうした未知の問題に対する解決策を自分の頭で考え抜き、その妥当性を根拠で示して検証し、実行につなげる「たくましい知性」を身につけてほしいと考えています。その根幹となるのが、各学部で修める学問です。学問には文字ができて以来、約5000年にわたる人類の経験のエッセンスが詰まっています。そこには、現代の私たちが抱える問題への直接的な答えは記されていませんが、過去の人々がその時代の課題にどのように向き合い対処してきたのかを知ることができます。つまり学問には、答えのない未知の問題にどう挑戦するのかという方法論が体系的に示されているのです。ここで皆さんに問いかけたいのは、自分自身を文系・理系と明確に分ける意識のまま学問を修め、社会に出て、果たして問題への確かな解決策を探り出せるだろうか、ということです。例えばコロナ禍では、各病院の病床の空きがわからず、救急搬送中の重症患者がたらい回しにされる問題が起きました。もし、多くの政策決定者が「デジタル技術を駆使して解決する」という発想を持ち、実行していたなら、この事態は避けられたかもしれません。一方で、真に役立つシステムを作るには、科学者や理工系のエンジニアにも「人間はどう行動するのか」という想像力が欠かせません。このように現実社会の問題に対処するには、文系と理系を横断する知識や視点が極めて重要になります。これが、早稲田大学が全国の大学に先駆けて文理連携の教育を進める理由です。文理連携教育の具体的な取り組みとして、早稲田大学では、学部・学年を問わずすべての学生が受講できる多彩なプログラムを用意しています。中でも基盤教育は、「日本語のアカデミック・ライティング」「英語の発話とアカデミック・ライティング」「数学的思考」「データ科学」「情報科学」の5分野をそろえ、文理の連携を体現する、世界的にも類を見ない充実した内容です。また、所属する学部での主専攻に加えて、その他の学問分野を体系的に学べる「全学副専攻」も多様なテーマで取りそろえています。こうした文理連携の学びと、各学部で修得する専門知識や論理性とを組み合わせ、「たくましい知性」をぜひ鍛えてください。加えて、多様な価値観に敬意を持って接する「しなやかな感性」や、他者の考えや意見に耳を傾け、互いに熟議し高め合う「ひびきあう理性」を磨いてほしいと願っています。それらを存分に伸ばすことができる学びの場を早稲田大学は整えています。身につけた知性、感性、理性はこの先、地球規模の課題のみならず、仕事や社会生活の中で直面するさまざまな課題の解決にも、必ず活かされるはずです。早稲田大学には創立以来の伝統として、多様性を認め合い、違いから学び合う文化が深く根付いています。キャンパスに世界中から集う学生は、出身地や国籍、文化、宗教、障がいの有無、性的指向・性自認など、一人ひとりの個性やバックグラウンドはそれぞれに違っても、誰もが等しく尊重され、互いに対等で、誰にでも居場所があります。学問研究やスポーツ、文化活動など、やりたいことを自分で探し出し、思う存分に挑戦できる大学です。ぜひ自らの限界を定めることなく、大きな視野で学びや活動の幅を広げてください。創設者の大隈重信は「一身一家、一国の為のみならず、進んで世界に貢献する抱負が無ければならぬ」と説きました。皆さんも大学で学びながら、身の回りや社会で起きている問題に関心を寄せ、自分なりの解決法を探って知恵を絞る経験を積み重ねてください。「世界で通用するグローバルリーダーを目指すならWASEDAで学ぶことが最も効果的である」と国内外で認知される未来に向け、早稲田大学もたゆまず進化を続けていきます。世界に貢献するグローバルリーダーになりたい、人類がまだ答えを知らない課題に挑みたい、という大きな志を胸に一歩を踏み出した皆さんと、キャンパスで会えることを楽しみにしています。人類が直面する「正解のない課題」 解決に必要なのは文理をつなぐ知見たくましい知性、しなやかな感性ひびきあう理性を伸ばしてほしい13President’s Message
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