情報アーキテクチャ分野では、メディアから経営工学まで、新たな情報活用がデザインされています。情報センシングから伝送・分析・意思決定までの情報通信技術全般をカバーし、情報・AI技術の理論・応用教育と、産学連携を重視した研究を軸とした高度技術人材を育成しています。また、理工系分野以外からの転入者にも配慮した教育メソッドによる幅広いキャリア形成を支援しています。当分野の教員の研究テーマは、Smart & Productive Community グループとして、スマートインダストリー、コミュニティ・コンピューティング、ネットワークインテリジェンスとセキュリティ、また、Artificial Wisdomグループとして、ニューロコンピューティング、用例翻訳・言語処理、データ工学、さらに、Human & Machine Coexistence Environmentグループとして、バイオロボティクス & ヒューマン・メカトロニクス、イメージメディア、バイオ情報センシング、光ファイバシステムがあり、情報分野を幅広くカバーしています。各教員は、精力的にこれらの研究に取り組んでいますが、その中で、当研究室は、「イメージ」を中心としたメディア研究を2003年から行っています。 高木貞治著「解析概論」(岩波書店、1961年)という有名な教科書に、曲線のことが書いてあり、「このような曲線は迷惑である」という一文がありました。1本の曲線によって2次元平面、さらに3次元以上の多次元空間を埋め尽くすことができる「空間充填曲線」のことです。G.ペアノ、D.ヒルベルト、G.カントール、W.シェルピンスキーなど、有名な数学者が、1890年頃からペアノ曲線、ヒルベルト曲線、シェルピンスキー曲線など、様々な空間充填曲線に関する論文を発表しました。一世紀以上前に発表した原著論文(英語ではなく、ペアノ曲線はフランス語、ヒルベルト曲線はドイツ語、シェルピンスキー曲線はフランス語で書かれている)を読むと、各数学者が曲線をどのように創り出したか、どのような考えをもっていたかがわかり、とても興味深いです。これらの曲線は、今までにデータ圧縮や画像処理、情報検索など、様々な応用研究に利用されてきました。当研究室は、40年以上前から「画像処理とパターン認識」をテーマに研究を続けていますが、この空間充填曲線に着目し、独自の画像処理アルゴリズムの開発に取り組んできました。1990年代、画像処理やパターン認識等の研究分野で世界的に有名な、故マリア・ペトロウ氏(インペリアルカレッジ・ロンドン・教授)から曲線に関する共同研究を持ちかけられ、様々な曲線の応用研究に本格的に取り組みました。共同研究の道半ば、彼女は2012年に亡くなりましたが、その後、遺志を継ぐ形で専門書籍「Image Processing:Dealing With Texture」(Wiley, 2021年)を上梓することができました。図は、3Dグラフィックスツールで作ったD.ヒルベルトによる3次元の空間充填曲線です。至るところ微分不可能なTricky(迷惑)な曲線であることがわかると思います。 数学が好きな学生は、ぜひ当研究室を訪れてもらいたいです。イメージメディアは、数学が好きで、曲線に関する理論を精力的に研究しているうちに、社会に役立つアイデアが生まれた研究分野でもあります。研究室のキーワードは、「たかが曲線、されど曲線」。数学的に迷惑な曲線でも世の中に役立てばよい。まさに、曲線をはじめ、数学的概念を使って社会に役立つ技術を生み出す研究室であり続けたいと考えています。研究紹介情報アーキテクチャ分野「たかが曲線、されど曲線」、そして画像処理技術の社会実装07Graduate School of Information, Production and Systems, Waseda Universityイメージメディア研究室(鎌田清一郎研究室)
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