3早稲田大学大学院日本語教育研究科(通称:日研(にっけん))は、2001年4月に日本で唯一の日本語教育を主専攻とする独立研究科として創設されました。これまでに1013名の修士号、95名の博士号取得者を輩出し(2024年9月21日現在)、国内外の教育機関 や企業等で幅広く活躍しています。設立20周年を記念して、2022年には同窓会組織である「日研稲門会」が立ちあげられ ました。修了生から漏れ聞いていたエピソードによると、世界中の現場で活動する1千名を超える修了生には、お互いに日研出身者であることを知らないまま共に活動していたケースも多々あったようです。そこで、在籍時期を越えた縦の繋がりを目に見えるようにしていこうというのが日研稲門会の設立趣旨のひとつです。また、このような修了生ネット ワークとしての機能を担うだけではなく、日本語教師としてのキャリアプランに関する シンポジウムなど、在学生に向けた企画なども積極的に行っています。大学院で学び、修了するという営みは、知識を増やし思考を深めるという個人的な 意味を持つと同時に、仲間を増やしネットワークを広げるという社会的な意味も持ってい ます。日研では、このような二つの側面から皆さんの人生を支えると同時に、優秀な人材を輩出していくことで社会に貢献することを使命としています。日本国内の日本語教育に目を向けますと、2024年4月に「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」が施行されました。これにより「登録日本語教員」という国家資格が創設されるとともに、「認定日本語教育機関」「登録日本語教員養成機関」を認定する制度が定められました。日本語教育に対する 社会的要請を踏まえるなら、日本語教師の資格化やこのような制度整備それ自体は一歩前進と言えます。しかし、資格や整備を実態としていかに充実させていくかはこれからの課題です。 AIの急速な発達・普及により、未知の外国語を入力すれば、きわめて高い精度の翻訳が瞬時に得られるようになりました。それどころか、アイデアやキーワードを入力すれば、 機械がゼロから文章を生成してくれます。外国語の学習方法や外国語との付き合い 方は、これからどんどん変わっていくことでしょう。このような時代にあって、時間をかけて外国語を学ぶ理由は何か。生身の教師にはどのような役割があるのか。オンラインで すぐに繋がれる社会のなかで、わざわざ教室という場に集まって誰かと一緒にオフ ラインで学ぶことにどのような意味があるのか。私たちの前には、このような新しい問いが、常に立ちあらわれます。 日本語教育学というのは、「人びとが日本語を学ぶ、教える、使う」といった観点から、世界の平和、人びとの幸せを追究する学術領域であり、そこでは「どのような問いを立てる のか」が常に問われます。日研は、このような問いを自ら立て、解決できる人材を育成するとともに、研究成果を発信していくことを目指しています。早稲田大学大学院日本語教育研究科・研究科長小林 ミナ 研究科長挨拶
元のページ ../index.html#3