3早稲田大学大学院日本語教育研究科(通称:日研)は、2021年に、開設20周年を迎えました。日本語教育を主専攻とする独立研究科として、さまざまな学際領域に、力強く発信を続け、これまでに、985名の修士号と、89名の博士号取得者(いずれも、日本語教育学)を輩出(23年9月21日時点)し、修了生は、国内外の教育機関や民間企業等で、幅広く活躍しています。2023年現在、日本語教育に従事する関係者は、予測しがたい社会課題に直面しており、なかでも、新型コロナウィルス感染症によって引き起こされた困難な状況を好転させるべく、日本語教育の機会の拡充に向けた努力を続けています。留学生はもちろんのこと、とりわけ、外国にルーツをも持つ幼児・児童・生徒をはじめ、留学生、経済連携協定(EPA)による看護・介護従事候補者、技能実習生や特定技能就労者などの被用者、難民・避難民への日本語教育の他、地域における日本語教育や、海外の日本語学習者だけではなく、日本語を母語とする人々の理解と関心の増進なども喫緊の課題となっています。そうした流れの中で、法務省の「日本語教育機関の告示基準」に示された、日本語教師になるための資格取得要件に加え、文化庁では、質の高い、多様な日本語教師の確保のため、日本語教師の養成修了段階の専門性を有することを確認する、国家資格「登録日本語教員」制度の創設が、2024年度以降の実施に向けて検討されています。 ただ、国家資格化は、あくまで行政措置であって、即座に、日本語教師の社会的認知度が上がり、職場環境等の待遇改善や、人手不足の解消につながるわけではありません。 これは、日研に入学し、日本語教育学に関する知識と実践力を修得することで、社会創生に貢献できる人材となることをめざす皆さんが果たすべき、重要な課題解決のタスクとも言えます。そのために、日研では、「日本語」「学習と教育」「社会」を3本柱に据えた、理論と実践を両輪とする多様なカリキュラムを用意しています。これは、日研の、第一の特長とも言え、そうした多様なカリキュラムを運用する上で、大学も対面授業による学びに戻りつつある中、培ってきたオンラインの知見を生かし、21世紀型スキルの獲得をめざした、アクティブラーニングを積極的に導入しています。皆さんをお迎えする教職員は、ウィズコロナの時代において、自律性をもち、持続的な学びが、どのように可能となるかを、これからも考え続けていきます。日研が特長とする、もう一つの多様性は、在籍者の国籍、年代に加え、積み重ねてきた社会的および職業的キャリアや、日本語教育観にも表れています。世界各地で活躍する修了生をつなぐグローバル・ネットワークも活発化しており、充実した奨学金制度と共に、日研への持続可能な支援体制が構築されています。世界の日本語教育の発信拠点(transmission point)を考える場合、東アジアの役割や 貢献は、依然として大きいものの、東南アジアをはじめとした他の地域も、独自の発展を遂げつつあり、そうした動態的に変容する、グローバルレベルのプロセスを読み解く能力(コンピテンシー)が求められています。また、機関数・教師数・学習者数などといった、 日本語教育の統計的特徴に注目するだけではなく、質の高い教師養成・研修、専門分野別日本語教育研究の発展、教材開発、オンラインを含むカリキュラムデザイン、日本語 教育政策の構築などが重要課題となります。日研は、これからも、日本語教育の中核を成す研究および教育拠点である、CoE(Center of Excellence)としての役割を担うべく、入学に関心を寄せる皆さんに、発信していきたいと思います。 にっけん早稲田大学大学院日本語教育研究科長宮崎 里司研究科長挨拶
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