大学院経済学研究科長鎮目 雅人3 現在の世界は、歴史的な転換点に差し掛かっていると、よく言われます。ここ数十年を振り返ると、地球環境問題が新たに世界的な論点として浮上しています。地球的な規模で地政学上の変化が進行しています。長寿社会という長年の目標を達成した日本では、少子化による人口減少傾向が明らかになるにつれ、将来における社会のあり方が改めて問われています。ここ数年をとってみても、新型コロナ感染症の世界的な拡大、ロシアによるウクライナ侵攻とこれに続く資源価格の急騰など、後世において歴史の転換点として長く記憶されるかもしれない(あるいは忘れ去られるかもしれませんが)出来事が起きています。 歴史を振り返ると、考え、決定し、行動するという日々の人間の営みが、歴史をつくってきたのであり、人類はつねに歴史的な転換点に立っていたと考えることもできます。この点に関連して、早稲田出身のエコノミストで、戦前・戦中に『東洋経済新報』の主筆を務め、戦後は大蔵大臣や総理大臣を歴任した石橋湛山は、第1次大戦中の1916年に、「『人』中心の産業革命」をはじめとする一連の社説を『東洋経済新報』に連載しました。この中で湛山は、19世紀の産業革命は「物」中心であったのに対し、「将来来るべき20世紀のそれは『人』中心でなければならぬ」として、生産物の量のみを増やしても人々の幸福が増すとは限らず、「その物が、各人の必要に応じて公平に分配」される必要があり、また、「生を楽しむ時間の余裕もまた人類にとって貴重なる宝である」と述べています。湛山がこの社説を執筆してから百年以上を経た今日においても、この点は引き続き人類の課題となっています。経済学はこうした人間の営みを研究する学問であると、私は考えています。 私たち経済学研究科の教育目標は研究者の養成と高度専門職業人の育成です。私たちは、世界に開かれた大学院として、国籍、エスニシティ、ジェンダーを問わず多様な学生を受け入れています。それぞれの分野で世界を舞台に活動する教員を擁し、充実した研究・教育プログラムに基づいて、日本語、英語のどちらの言語でも(修士課程の場合、日本語は4月入学、英語は9月入学のみ)、学位を取得することが可能です。 研究者の養成に関しては、ひとりひとりの学生の志向と能力に応じたきめ細かな研究指導体制を敷いています。体系的なコースワークの整備を進めており、各担当教員による個別の研究指導に加え、各研究分野における教員による指導体制をとっています。特に博士後期課程においては、他分野を含めた教員・同僚の前での研究報告、自然科学・人文社会科学を含めた学際的な研究プロジェクトへの参画を図っています。また、研究ならびに生活全般に対するカウンセリングにも力を入れています。さらに、内外の学会報告や論文執筆のための各種補助制度など、世界レベルの研究者の育成のためのさまざまな施策に力を注いでいます。この結果、ここ数年で博士号の学位を取得する学生の数が飛躍的に増加するなど、着実に成果を挙げています。 修士課程では、高度専門職業人の育成を目的として、実社会で活用できる経済学の実践的知識の習得に重点を置いた実証分析プログラムを2014年度より設置しました。また、当研究科とあわせて政治分野との密な連携を図ることができる国際政治経済学コース、外国大学との連携や交換留学プログラムの充実により、多様な職業人の育成に力を注いでいます。本研究科の修士課程を修了して就職する学生は、社会の幅広い分野で活躍しています。 人間の営みを研究する学問としての経済学の持つ可能性を正面から見据え、アジアに位置する世界的な経済学研究のハブとして、研究・教育の一層の充実を図っていくことが、私たちの使命であると、私は考えています。メッセージ「世界に羽ばたく人材に」
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